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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)479号 判決

裁判所書記官

物井昭三

本店所在地

東京都町田市旭町一丁目一六番一三号

株式会社本町田不動産

(右代表者代表取締役鈴木貞光)

本籍

東京都町田市本町田九二一番地

住居

右同

会社役員兼農業

鈴木貞光

昭和五年八月二八日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社本町田不動産を罰金八〇〇万円に、被告人鈴木貞光を懲役六月にそれぞれ処する。

被告人鈴木貞光に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社本町田不動産(以下「被告会社」という。)は、東京都町田市旭町一丁目一六番一三号に本店を置き、不動産の売買及び仲介業等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人鈴木貞光は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人鈴木は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売買を江川建設工業株式会社(代表取締役江川常三郎)の名義で行うなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、三一五万六、二〇〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年五月三〇日、東京都町田市旭町一丁目八番二号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が八二二万一、三二四円で納付すべき法人税額は無い旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第九二六号の1)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三、〇八七万八、一〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人鈴木貞光の当公判廷における供述

一  被告人鈴木貞光の検察官に対する供述調書五通

一  今井長成(三通)、江川常三郎(三通)及び入江良一の検察官に対する各供述調書謄本

一  鈴木フジエの検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の支払利息調査書

一  検察官作成の捜査報告書四通

一  東京法務局町田出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五七年押第九二六号の1)

(法令の適用)

被告人鈴木の判示所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人鈴木の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示の罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金八〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、都下町田市の旧家で不動産など一〇億円を超える資産を有する被告人鈴木において、営農のかたわら全額出資の被告会社を設立して不動産の売買及び仲介業等を営み、その業務に関して三、〇〇〇万円余の法人税を免れたという事案である。犯行の動機は、被告会社の裏資金を貯めるにあったというのであるが、被告会社が資金的にさして困窮していたわけでもなく、格別斟酌するに値しない。また、犯行の手段も、江川常三郎に多額の謝礼を支払うなどして協力を求め、あるいは遠隔地の銀行に架空名義で簿外預金を設定するなど、計画的かつ周到なものであり、このようにして、多額の所得があったにもかかわらず、八〇〇万円余の欠損金を申告したもので、納税意識の欠如は看過することができない。更に犯行後国税局の査察がなされると証拠の隠匿行為も行っているのであり、こうした事情にかんがみると、被告人らの刑責は軽視することができない。

しかしながら、本件は、司法書士今井長成の発案企画にかかるものであり、同人の助長による点も少なくないのであって、逋脱額も判示の程度にとどまり、逋脱年度も単年度であるうえ、その後修正申告に及び、本税のほか重加算税等の総額六、〇〇〇万円余を、被告人鈴木所有の不動産を売却処分するなどして、すべて支払っていることが認められ、捜査にも最終的には協力したうえ、本件を反省し、今後は正しく納税する旨供述している。そのほか、被告人らに前科前歴なく、実兄の監督も今後期待できることなど被告人らに有利な事情も認められるので、以上諸般の事情を勘案して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別紙(一) 修正損益計算書

株式会社 本町田不動産

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

〈省略〉

別紙(二) 税額計算書

株式会社 本町田不動産

〈省略〉

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